任意後見制度の概要と実務
        (+後見登記制度)
 
(社)成年後見センター・リーガルサポート滋賀
副支部長   林   善  彦   
 
任意後見制度
1.任意後見制度の創設の経緯
   2025年 520万人 要保護状態の高齢者
   平成10年 禁治産宣告の審判件数 1079件  準禁治産 251件
 
 従来の禁治産・準禁治産制度の問題点
   後見太り 後見人が自己の利益を図る 後見人の権利濫用
   欠格事由が多い
   フレクシブルでない
   精神鑑定に費用がかかる
   申立人の問題
   社会的偏見が強い
   戸籍への記載
 
   今まで
     アンチノーマライゼイション
       本人にとって、それまでの生活を保証してくれるものではなかった。
     他者決定
 
   これから
     ノーマライゼイション
       (障害のある人も家庭や地域で通常の生活をすることができるような
        社会をつくるという理念)
     本人にとって、それまでの生活を保証してくれるもの
     自己決定

   @残存能力の活用   60の能力がなくなったとしても40の能力をいかしていこう                     
        人間にとって大切なこと
             ○ 本人の望むケアー
             × 与えるケアー 
    例 呆けた祖母
    祖母  食器を洗うを言い出す
     母  もう結構ですよ。2階へ行って、水戸黄門でも見ていてください。        
           (おばあちゃんが洗ったら、もう一度、洗いなおさなければならない)と心の中で思っている。
       
     そうじゃない。40の残存能力を活用させてあげないとダメなんだ。
     寝たきりの、完全な呆け老人になってしまう。
     40の残存能力を活用することが生きるということであり
     それが、人間としての尊厳なんだ。
     
     法定後見   補助
 
  A任意後見制度
     能力のあるうちに契約をしておこう
 
     民法 653条
        111条
     これらの規定を基に、法制審議会民法部会は当初時期早しょうと
     となえていた
      福祉関係団体、経済団体、消費者団体、司法書士、大学等早期に制度化
     してほしいという要望がだされた
      参考人としてのヒアリング・・・日司連 斎木賢二
      要綱試案に対し滋賀県司法書士会も答申を出している
 
2.任意後見制度の概要等
成年後見関連4法 
@民法の一部を改正する法律
A任意後見契約に関する法律
B民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律
C後見登記等に関する法律
   平成11年12月1日成立 平成12年4月1日施行
 
   cf.仮登記担保契約に関する法律
 
 (別表2)任意後見制度の概要参照
 
 
3.任意後見制度の利用のあり方
(1)老人性痴呆に備える場合
(2)現に軽度の知的障害・精神障害がある場合
(3)危険な手術に備える場合
(4)いわゆる「親亡き後」対策に備える場合
   親なき後
      知的障害者・精神障害者の親権者、未成年後見人
     「遺産の管理方法と遺言執行者を指定する遺言」+
     「本人を代理し、本人を委任者とする任意後見契約を締結し、遺産の管理
      方法と遺言執行者および任意後見人を指定」
 
任意後見契約の実際の利用形態
  @将来型  
  A即効型
  B移行型  
 
任意後見契約
   任意後見契約     任意後見監督人選任
    ( 公証人役場)     (家庭裁判所)



 
本人 本人
任意後見受任者
(代理権なし)
任意後見人
(代理権あり)
  任意後見監督人
 
1.任意後見契約の内容
     2条1号
     精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況・・補助以上
     代理権付与の対象となる法律行為
       財産管理に関する法律行為
         預貯金の管理・払戻し、不動産その他重要な財産の処分
         遺産分割、賃貸借契約の締結・解除等
       身上(生活又は療養看護)監護に関する法律行為
         介護契約、施設入所契約、医療契約等
 
     停止条件 任意後見監督人の選任
       任意後見人の権限乱用防止
       次の特約は無効
        委任者が意志能力を喪失したことを停止条件
        委任者が一定の年齢に達した時を期限とする
 
2.任意後見契約の方式−公正証書の作成
     法務省令で定める様式の公正証書(別紙資料参照)
     登記事項証明書に代理権の範囲が正確に記載されることを制度的に担保
     証人・立会人不要
     手数料  11000円
     登記費用 登記手数料4000円 + 公証人手数料 1400円
 
3.後見人となる者
   任意後見人候補者
     法律上制限なし・・・任意後見監督人選任の審判の段階でチェック
     法人可
     複数の任意後見人可
 
任意後見監督人の選任
1.任意後見監督人の選任の要件・手続(4条1項、3項)
    選任の実体的要件
      任意後見契約が登記されていること・・添付書類 登記事項証明書
      精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況にあること
        特別家事審判規則3条の2 診断の結果等の聴取
        添付書類 診断書
    
    選任の手続的要件
      選任請求件者の申立て
        ○ 本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者
        × 検察官、市区町村長
 
      本人の申立てまたは同意  4条3項
 
    選任の障碍事由
      本人が未成年  任意後見契約の締結は、可
        4条1号    同意 代理
              親権者、未成年後見人との権限の抵触・重複の回避
  
      
      本人が法定後見開始の審判を受けている場合で、継続が本人の利益のた
      めに特に必要であると認めるとき 4条2号
       @任意後見監督人を選任し、任意後見契約の効力を発生させ、
        法定後見の審判を取り消す。
       A法定後見を継続させ、任意後見監督人の選任申立てを却下。
      原則 @  例外 A・・本人の利益のために特に必要がある場合
 
      不適任な事由
       4条3号     民法847条、8条 解任事由
 
2.任意後見監督人の補充的・追加的選任
    補充的選任 4条4項
       本人、親族、任意後見人、家庭裁判所の職権
    追加的選任 4条5項
       同上
  
3.任意後見監督人の欠格事由
    5条 民法850条 欠格事由=当然失職事由
    任意後見監督人が、任意後見人と婚姻・養子縁組・・・資格を失う
    7条4項 民法847条
 
4.任意後見監督人となるもの
    任意後見監督人の選任の考慮事情
    7条4項 民法843条4項
    1.本人の心身の状態ならびに生活および財産の状況
    2.任意後見監督人の候補者の職業・経歴
      (法人の場合は、その事業の種類内容)
    3.任意後見監督人の候補者と本人との利害関係の有無
    4.本人の意見
    5.その他いっさいの事情
 
    任意後見監督人の候補者
    法人可、複数可
           
任意後見人の事務等
1.任意後見人の事務
    代理権付与の対象となる法律行為
      財産管理に関する法律行為
        預貯金の管理・払戻し、不動産その他重要な財産の処分
        遺産分割、賃貸借契約の締結・解除等
      身上(生活又は療養看護)監護に関する法律行為
        介護契約、施設入所契約、医療契約等
 
2.任意後見人の身上配慮義務等
    6条  民法644条 善管注意義務 
 
3.任意後見人の報酬・費用等
    報酬  民法648条  後払い 
        LS 月28000円
    費用  民法649条 前払い
        民法650条 
 
任意後見監督人の職務等
1.任意後見人に対する監督
    任意後見人の事務の監督 7条1項1号  民法851条1号
    家庭裁判所に対する定期的な報告 7条1項2号
      法定後見・・成年後見人等からの報告
    任意後見監督人の報告請求権および調査権 7条2項
      民法863条1項 876条の5 2項 876条の10 1項
    家庭裁判所の任意後見監督人に対する監督 7条3項
    監督の機能
      8条 任意後見人の解任請求
   
2.監督以外の職務
    急迫な事情(任意後見人の不在、病気)がある場合、任意後見人の代理権の
    範囲内において、自ら必要な処分をすること 
     7条1項3号  民法851条3号 
    任意後見人又はその代表する者(任意後見人の親権に服する子、任意後見人
    を代表とする法人等)と本人の利益が相反する行為について、本人を代理し
    て、自ら当該行為を行うこと 7条1項4号  民法851条4号
 
     任意代理権の範囲内
    ×民法859条の3  本人の居住用不動産を処分
                 ・・家庭裁判所の許可不要
    ×民法851条2号
 
3.任意後見監督人の報酬・費用、辞任・解任等
    報酬 民法862条、 費用 861条2項
    辞任 民法844条 正当な事由、裁判所の許可
    解任 民法846条 他の任意後見監督人、本人、親族、検察官、職権
              ×任意後見人
 
4.任意後見監督人の善管注意義務等
    民法644条 善管注意義務
    民法654条 委任終了時の善処義務
    民法655条 委任終了の対抗要件
5.複数の任意後見監督人の権限行使に関する定め等
    民法859条の2 1項 審判により、権限の共同行使、分掌の定め
    後見登記法5条7号
 
 
任意後見契約の内容の変更
  1.任意後見人の変更
      契約解除後、新たな任意後見契約
 
  2.代理権の範囲の拡大 
      変更契約はできず
      任意後見契約維持+追加的に任意後見契約の公正証書作成
 
  3.代理権の範囲の縮小
      任意後見契約解除+新たな任意後見契約の公正証書作成
 
  4.管理対象財産の変更
      代理権の範囲の拡大・縮小と同じ
 
  5.その他の契約条項の変更
      公正証書により可能 私署証書による変更契約不可
      12.3.13民一第634号民事局長通達 
 
任意後見契約の終了と対抗要件
1.任意後見契約の終了事由
    任意後見契約の解除
     任意後見監督人の選任前、選任後
     9条
    任意後見人の解任
     8条
    法定後見の開始
     10条3項
    契約当事者の死亡・破産
     民法653条 
 
2.任意後見契約の解除
      民法651条1項 委任 各当事者がいつでも解除
      特則  9条
     任意後見監督人の選任前・・いつでも
      公証人の認証を受けた書面 ×公正証書
     任意後見監督人の選任後・・正当な事由
      家庭裁判所の許可
      ×一部解除 
3.任意後見人の解任
     8条 民法846条
     不正な行為 横領、背任等
     著しい不行跡 職務に関しないことでも、適格性が欠如
 
     請求権者 任意後見監督人、本人、その親族、検察官  
          ×家庭裁判所職権
 
4.任意後見人の代理権消滅の対抗要件
    (1)11条の趣旨
         民法655条 相手方にその事実の通知
                相手方がその事実を知った場合
         登記・・第3者対抗要件
         取引の相手方
           登記事項証明の記載を信頼して取引OK
    (2)任意後見人の代理権の確認方法
         登記事項証明書 後見登記法10条1項
 
法定後見との(補助・補佐・後見)との関係
1.任意後見契約と法定後見開始の審判との関係
    任意後見優先
       本人の自己決定の尊重
       権限の抵触・重複回避
    任意後見契約が登記されている場合
      原則 法定後見の開始審判・・・却下
      例外 本人の利益のために特に必要があると認めるとき
         ・本人が任意後見人に授権した代理権の範囲が狭すぎ、
          法定代理権の付与が必要だが、本人の精神状況が任意の
          授権の困難な状態にある場合
         ・同意権・取消権による保護が必要な場合
 
2.任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人の法定後見開始の審判の請求権
    本人の利益のために特に必要があると認めるとき
      申立権者
        本人、配偶者、4親等内の親族、検察官等+市町村長+
        任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人
 
3.法定後見開始の審判による任意後見契約の終了
    10条3項
    任意後見監督人選任後の法定後見開始の審判・・・任意後見契約は終了
             前          ・・・       存続
  
 
4.任意後見監督人の選任と法定後見開始の審判の取り消し
 
 
家事審判手続等
1.家事審判法の適用関係
   (1)任意後見監督人の選任
      任意後見監督人の選任に伴う法定後見開始の審判の取消
   (2)報告の徴収、調査命令その他任意後見監督人の職務に関する処分
      任意後見監督人の辞任についての許可
      任意後見監督人の解任
      任意後見監督人が数人ある場合の権限の行使についての定めおよびその取消
      任意後見監督人に対する報酬の付与
   (3)任意後見人の解任
      任意後見契約の解除についての許可
  
2.最高裁判所規則
 
3.施行期日
    H12.4.1 
  

参考文献

1. 「新成年後見制度の解説」 小林昭彦・大門匡編著 岩井伸晃・福本修也・原司・岡田伸太田著 
  社団法人 金融財政事情研究会
2.「一問一答 新しい成年後見制度」  小林昭彦・大鷹一郎・大門匡
  社団法人商事法務研究会    
3.「成年後見」 新井誠編  有斐閣  
4.「これで安心!成年後見 上手な利用法」  社団法人成年後見センター・リーガルサポート東京支部監修
  松井秀樹他著 (株)中央経済社
5.「新成年後見制度と銀行取引Q&A」 石井眞司・伊藤進監修 猪俣秀章他著
  BSIエヂュケーション      
6.「成年後見登記の実務」 登記研究編集室編 テイハン